映画『凶悪』鑑賞

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3連休の初日、映画『凶悪』を観てきました。それも公開初日に。それだけオレにとっては”待ちに待った映画”でした。
この映画は”フィクション”というコトになっていますが、実際にあった事件を元に書かれた”犯罪ドキュメント”を原作にしており、この本が世に出たコトによって、闇に葬り去られようとしていた殺人事件が表舞台に引きずり出され、社会的に脚光を浴び、その結果、事件の首謀者が逮捕されるに至ったという、かなり異色のドキュメンタリー本が原作の映画です。
オレは、今年のアタマ、山田孝之リリー・フランキーピエール瀧という、なんだか意味が分からないキャスティングでこの映画が制作されるコトを知って、すぐさま本屋で原作を購入し、貪るように読みました。え〜っとね。読んでる間、こんなに精神的にヤラレたのって『羊たちの沈黙』『レッドドラゴン』以来かも。もぉね、内容があまりに”凶悪”過ぎちゃって、どっかがマヒしちゃう、そんな本。だから、それをあのワケ分からないキャストでどう映像化するのかが楽しみでしょうがなかったのよ。


ストーリーとしては、複数の殺人を犯して逮捕・収監されている死刑囚の元暴力団組長須藤(ピエール瀧)が、”まだ表沙汰になっていない3件の殺人事件”を告発するトコロから始まります。須藤が刑務所の中から知り合いのツテを通じて出版社宛に出した告発文が、ふとしたきっかけで事件記者藤井(山田孝之)の手に渡ります。告発文には「3件の殺人事件の首謀者が、まだ娑婆でのうのうと暮らしている。ソイツが許せないから記事にして欲しい」というものです。藤井の所属する雑誌編集部では、その告発文があまりにも荒唐無稽で信憑性が低いモノである判断し、取材依頼を断るために藤井を須藤の居る刑務所に向かわせます。しかし、須藤と面会した藤井は、最初は半信半疑でしたが、話を聞いているうちにジャーナリスト魂に火が付き、会社に黙って事件の取材を始めます。須藤が告発した3つの殺人事件の首謀者は、周りから「先生」と呼ばれる不動産ブローカーの木村(リリー・フランキー)で、後藤は彼のために様々な犯罪に手を染めていた、言わば同胞。先生の周りでは保険金や土地の売買を巡って複数の事故死や自殺が頻発し、その都度、彼に莫大な利益が転がり込んでおり、須藤は彼のコトを”死の錬金術師”と呼んでいました。しかし、ある事件をきっかけに後藤と先生の蜜月関係に終止符が打たれます。後藤は先生の裏切り行為が許せず、どうにかして自分と同じ地獄に引きずり込みたいと告発するコトを決意します。須藤の告発文は荒唐無稽かつ曖昧模糊ではあったものの、藤井が地道に独自取材を進めるうちに徐々に裏付けが取れていき、須藤の告発がウソではないコトが分かり始めます。と同時に、点と点が結ばれ線となり、線と線が繋がって面となり、次第に隠されていた凶悪な殺人事件の概要が姿を現し始めます。


もぉね、キャスティングが抜群に素晴らしいのよ。ピエール瀧は『あまちゃん』にも出演していますが、過去から様々な映画に出演しており、どの作品でも独特の存在感を放っています。ぶっちゃけ大して演技が上手いワケじゃないのよ。役者じゃねぇんだから。元々が富士山のかぶりモノ着て「♪ふっじっさ〜ん ふっじっさ〜ん 高いぞ高いぞ ふっじっさ〜ん♪」って叫んでるだけの人だったんだから。それがね、センスのない派手なセーター着て、人を殴って下品にゲラゲラ笑ってる演技を観てると、次第にヤクザに見えてくる、この不思議さ加減と言ったらナイわぁ。元々の顔がいかついし、カラダもデカいからっていうのもあるのかも知れないけど、ヤクザ独特の暴力的な立ち振る舞いみたいなモノが板についていて、ドン引き。瀧自身、須藤役の出演依頼があった際、本を読んで「須藤という男に共感できるトコロがドコにもないから演じるコトはムリ」と断ったと聞いています。しかし、監督の「どうしても瀧に演じて欲しい。須藤を演じるコトで瀧の新たな一面を発掘したい」との懇願で、出演を了承したらしいです。いやぁ。電気GROOVEなのにねぇ。ナゴムなのにねぇ。
一方、リリーさんも、映画『ぐるりのこと。』でブルーリボン新人賞を獲るぐらい、最近では役者としての評価が上がってます。今月末に公開される福山雅治主演の話題の映画『そして父になる』でも主要キャストを演じているコトからも分かるように、立て続けの映画出演。「先生」と呼ばれる非力で卑怯、かつ冷酷な男を、落ち着いた演技で表現していて、リリーさんの飄々とした風貌が逆に狂気を孕んでいるようにしか見えないぐらい。正直、気持ち悪いのよ、リリーさん演じる先生っていうのが、生理的にムリってカンジでさ。一見、人当たりが良くて優しいように見えるんだけど、だからこそ信用しちゃうんだろうなぁ。帰ってきてダイワハウスのCMで深津っちゃんと手ぇ繋いでるの観たら「深津っちゃん、気を付けて!ソイツに殺されちゃうよぅ!」って思うぐらい、リリーさんの印象が変わる。
また、自分の家族も顧みずに事件の没頭していく事件記者を演じる山田孝之の冷たい演技も見どころの一つ。自分の手によって事件をどんどん明るみで引きずり出すコトが”ジャーナリズムの持つチカラ”であり”正義”であると信じて疑わない記者藤井も、ある種の狂気によって突き動かされる一人。ネタバレになるから詳細は割愛しますが、事件の経緯や詳細が明るみに出てくるに従って、藤井の表情や目がどんどんおかしくなっていくのよ。あぁいう演技をさせたら山田孝之は上手いねぇ。
あと、原作は犯罪ドキュメンタリーの記録として、記者の目線で淡々と取材の経過が綴られているのに対し、映画では事件を追う藤井のプライベートまで描いていて、これは映画オリジナルの部分なんだけど、このシーンに出てくる藤井の妻役の池脇千鶴が素晴らしいのよ。家庭を顧みない夫とのすれ違いの生活に疲弊していく様子が、短いシークエンスの中からでも分かる。殺人事件とは別に、こういうシーンでも精神的にヤラレる。


もぉ、全編を通してヒリヒリした感覚がつきまとう映画。慣れてない人、耐性がない人は気分が悪くなると思う。だって、出てくるシーンのほとんどが”凶悪”なんだもん。コレね、現実にあった事件を元にしてるってコトを意識しながら観ると、本当に寒気がするよ。人って金のためにココまで出来るモンなのか、って。観てる方がヤラレるぐれぇだから、演じる方も相当大変だったと思うわ。リリーさんと瀧ってプライベートでも一緒に旅行に行くぐらいの仲良しちゃんなんだけど、最後の最後、法廷で先生と須藤がにらみ合うシーンでは、リリーさん「本当に瀧に殺されるかと思った」って言ってるし、瀧も「撮影中はほとんど話もしなかった」って言ってるぐらい、お互いに役作りに苦労した模様。


レーティングが”R15”で、かなりきわどいシーンを多く含んでいるため、暴力シーンや性描写シーンが苦手な人にはオススメしません。確実にヤラレます。ただ、オレとしては、自分が生活している日常のスグ隣にもこんな現実が転がってるかも知れないというコトを知るのは悪いコトではないと思います。ふとしたきっかけで人を狂気に駆り立てる”金”というモノの存在。金のためには人の命をなんとも思っていない人間も、この世には居るっていうコトだけは覚えておきたいと思います。


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凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

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