なんだかんだ言って結局本買ってるわ、オレ

昨日、会社の入ってるビルの喫煙所で、他の会社のサラリーマン二人組が仕事の話をしてた。聞くとはなしに聞いていると「それなら、さなかクンにやらせろよう」「あぁ、さかなクンならイイですね」オレの聞き間違いでなければ、確実に「さかなクン」と言っていた。果たして「さかなクンに似ているからさかなクンというあだ名」なのか、本当に「さかな」という苗字なのか。なんとなく、二人の会話のカンジからして、本人の前では「さかなクン」とは呼んでいない雰囲気を嗅ぎ取ったTARです。会ってみたい、さかなクン。もしソックリさんだったら、一目で分かるだろう。その時は、こう言うんだ。「ぎょぎょぎょ〜!」って。


外出する時は、ほとんどの場合、文庫本を一冊カバンに入れて家を出る。少し時間が余った時とかに手軽に開いて読めるように。そうすると、駅などで乗りたかった電車にギリギリで乗れなかった時に「次の電車はまだか?」とイライラして待つコトもなく、「じゃあ、本でも読んで待ってるか」と精神的に余裕が出る。締まりかけたドアに向かってみっともなく駆け込み乗車するコトもなくなる。しかも、先が気になってしょうがない小説を読んでいる場合などは、次の電車を待つ時間も「ラッキー!続きが読める!」と、逆にポジティブになれる。オレにとって、そういう小説を書く作家が誉田哲也


この人の名前がメディアで注目されるようになったのは、剣道部に所属する二人の女子高生を主人公に、北乃きい成海璃子のW主演で映画化された『武士道シックスティーン』(武士道シリーズ)だが、竹内結子主演でドラマ化・映画化された『ストロベリーナイト』(姫川玲子シリーズ)が大きな話題となり、その後、黒木メイサ多部未華子のW主演でドラマ化された『ジウ』(ジウシリーズ)、夏帆主演でドラマ化された『ヒトリシズカ』、松下由樹主演でドラマ化された『ドルチェ』(魚住久江シリーズ)と立て続けに映像化され、その人気の高さが伺える作家の一人である。特に、姫川玲子シリーズとジウシリーズは、緻密な取材によって構築されたリアルな世界観と、ときに嫌悪感すら催すハードな描写、様々なキャラクターの心情が複雑に交錯する人間模様が魅力の警察小説であり、スピンオフ作品も刊行される程の人気作品である。初期作品は夢枕獏菊地秀行といった系譜に属する伝奇小説が多かったものの、作者自身が作家デビュー前にプロミュージシャンを目指していたコトもあり、売れないロックバンドの葛藤を描いた青春小説を書いたり、幅広いジャンルを書きこなす手腕は、当代随一と言っても過言ではないと思われる。


吉原暗黒譚 (文春文庫)

吉原暗黒譚 (文春文庫)


そんな作家がさらなる新境地として時代小説に挑戦したのが、この『吉原暗黒譚』である。江戸時代の遊郭「吉原」を舞台に、花魁ばかりを狙う連続殺人事件を追う同心とその相棒として動く元花魁。そこに、主人公のワケありの幼馴染や過去の未解決の呉服屋強盗事件が絡み合い、最後に一つの線として真相が現れるという凝った構成。設定が江戸時代のため、アタマの中に浮かぶビジュアルは時代がかったモノではあるけれど、情景や心象描写は、姫川玲子シリーズに通じるリアルでハードな警察小説のまんま。時代小説を読み慣れない人でも違和感なく読み進められるのは、やはり作者のテクニックに依るトコロなのか。


正直、この人の小説って、読むのにパワーが必要なのよ。登場人物の内面をえぐる描写も多く、いくらフィクションとは言え、誰もが持ち得ているけど日常生活では表に出てこない精神的な闇を、白日の下に晒し出すように描くから、登場人物に感情移入して物語にどっぷり浸るように読んでると、精神的にヤラレる。それが分かってるから読み出すまで時間がかかるんだけど、いざ1ページ目を開くと、その瞬間から引きずり込まれて夢中になる。かなり中毒性が高い小説。今回も、たまたまマイブームが『ディスカバリージャパン』だったってコトで「時代小説も読んでみるか」って軽い気持ちで読み始めたんだけど、3ページ目ぐらいで「やっぱ、超面白ぇぇぇぇ!」って。冷静に「ナニがこんなに面白いんだろう?」って考えるんだけど、未だに分からない。確かにストーリーや登場人物が魅力的でヤミツキになるっていう要素はあるんだけど、ほんの数ページでそんなの分かるワケねぇじゃん?でも、実際に数ページ読んだだけで「面白い!」ってなるんだから、根本的な文章に、読者に訴求するナニかがあるんだと思う。「ホントかよ?」って思うなら、試しに読んでみて。人気シリーズの『ストロベリーナイト』や『ジウ』から読んでもイイけど、結構目を背けたくなるような残虐な描写もあるんで、そこは自己責任で。この作者、コンスタントに新刊が出てるから、思い出した時に本屋の新刊コーナーにあるのを手に取ってもらってもイイかも。だからって、今、本屋の新刊コーナーに置いてある『感染遊戯』は姫川玲子シリーズの最新作だから、取っちゃダメよ?このシリーズを読むなら『ストロベリーナイト』からね。